Hong Kong Action Theatre!

 「HONG KONG ACTION THEATRE!」は、Event Horizon Productions から1996年に出版された、香港映画の再現を目指した RPG です。(注:この記事は 1st Edition を対象にしています)

◎どんなゲームか?

 「Hong Kong Action Theatre!」(以下 HKAT!) は、香港映画の再現を目的とした RPG です。
 チョウ・ユンファのハードボイルド・ガンアクション、ジャッキー・チェンのカンフーアクション、「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」などの中国風ファンタジーアクション……、こういった定番の香港アクション映画を再現するための仕掛けが施されています。

◎キャラクター

 プレイヤーはまずキャラクターを作ります。これは、通常の RPG と違い、役者のデータを表すものです。(「イット・ケイム・フロム・ザ・レイト・レイト・レイトショウ」(以下 レレレ) に近いと言えないこともないです)
 役者のデータといっても、役者自身の能力を表すというよりは、「誰某という役者がいつもやっている役柄」を表すものです。
 例えば、ジャッキー・チェンなら、どんな設定のどんなストーリーの映画に出ても、すばしこく、少し抜けていて、コミカルな感じの動きをし、高いところから落ちるなどのアクションが得意という役どころを、ほとんどの映画で演じています。
 HKAT! では、こういった「役柄の傾向」を、プレイヤーキャラクターのデータとして表現します。

 レレレでは、能力不足の役者であるキャラクターが能力の高い役柄を与えられて、なんとかしようと四苦八苦する様子を再現するようになっていましたが、HKAT! ではキャラクターはその能力を存分に生かして、大活躍をすることを求められます。

◎アクション

 HKAT! では、レレレと違い、スタントマンなどという軟弱なものはありません。
 スタントは、役者自身が体を張ってやるものです。スタントの難しさに応じた目標値に対し、適応する能力値で判定を行います。

 スタント・アクションに成功すれば、スターポイント (ヒーローポイントにあたるもの。詳しくは後述) を即座に得ることができます。
 スタントが難しければ難しいほど、得られるスターポイントは増えます。例えば、開いている一階の窓から外に飛び出すなどでは1ポイントしか得られませんが、走っている車から別の車に飛び移ると3ポイント、爆発するビルから電話ケーブル1本を命綱代わりにして脱出すると5ポイントが得られます。
 このため、プレイヤーは率先して自ら宣言して、派手なスタントをこなしていきます。

◎ヒーローポイント

 HKAT! では、他の RPG でのヒーローポイントにあたるものが2種類用意されています。気プールとスターポイントです。

 気プールは、消費することでサイコロの振りなおしや達成値の増加、与えるダメージの増加などができます。魔法を使う役を演じているキャラクターは、気プールを消費することで、その役柄に与えられた魔法を使うことができます。

 スターポイントは、人気のバロメーターであり、役者の我が儘をどれだけ通せるかという点で利用されます。

 撮影開始前には、配役をスターポイントによるセリにかけます。主役であれば、当然、最低入札値も高くなりますし、他のプレイヤーキャラクターとの競合があれば、支払うスターポイントを高く設定したほうがその役柄を競り落としたことになります。

 撮影中は、台本の書き直し要求や、ダメージや判定難易度の減少に使用することができます。台本の書き直しは、そのご都合主義の度合で、消費ポイントが変化します。(いつもいつもこじつけの幸運で死地から助かっているようだと人気は下がっていきます)

 撮影後、役柄のセリに払ったポイントに、演技の出来によって決まる倍数をかけたスターポイントが返ってきます (出来が悪い場合には減ったり、返ってこないこともある)。この時点でスターポイントは、経験点としてキャラクターの成長に使用できますし、次回の映画のために取っておくこともできます。
 「演技の出来」といっても、単に熱い台詞を吐いているだけでは評価されません (もちろん、台詞も大事ですが)。どんな行動ができたか、役柄や映画の内容に応じた行動を (体を張って) どれだけ行なえたかで評価が決まります。

◎戦闘

 HKAT! の戦闘ルールは、他の RPG に比べるとかなり特殊なものになっています。

 イニシアティブは、能力値+サイコロで高い値を出した者から行動するというわりと普通のものですが、目標値が決まっているというところが違います。目標値を上回った数だけ、行動ができます。それも、イニシアティブが来たそのタイミングですべての行動を行うことができますので、能力値と出目によっては、一瞬のうちに十数回の行動を行うことも可能です。
(ルールの記述が混乱していて、イニシアティブ決定に使うサイコロが1d10か1d20かわからないのですが、実際にそれぞれのやり方でプレイしてみた感想だと、1d10で十分だ(^^;)と思いました。メーカー側からも、サプリメント「To Live and Die in HK」で、イニシアティブ決定に使うサイコロは 1d10 と明確に規定されました)
 これは当然、何発ものパンチを次々に繰り出したり、物陰から飛び出して着地するまでの間に両手に構えたピストルを連射するといった行動の再現を狙っています。また、行動を準備に費やすことで次の行動の達成値やダメージを増加させることも可能ですので、単なる手数の多さでない強さも表現できます。

 また、ダメージ処理もやや特殊です。
 毎ターン、受けたダメージが一定値「回復」します。(傷が実際に治るのではなくて、精神力でダメージの影響を抑えるようなイメージを持ってください。戦闘後の治療では、戦闘中の「回復」分も合わせた累積ダメージを処理することになります)
 このため、かなりの傷を受けながらも主人公と敵のボスが戦闘を続けるという光景が、最後の戦闘では展開されます。長時間に渡る戦闘を行なっていると、数回死んでお釣りが来るくらいのダメージを受けているのだが、まだ戦い続けていられるというようなことになるのですが、なかなか香港アクション映画的でいいルールだと思います。

 余談になりますが、武器データの中には、(ジャッキー・チェンの映画ではお馴染みの)「椅子」がきちんと載っています。
 また、グレネード (手榴弾) のルールでは、爆発に巻き込まれた場合、雑魚は即死、大ボスは無傷というわかりやすい処理になっています。
 良く見ているというか、なんというか、様々な面でやりたいことがはっきり打ち出されたゲームです。

◎題材

 基本ルールブックには、扱うジャンルとして、ガンプレイ、マーシャル・アーツ、ビザーレ・ファンタジー (中国系ファンタジー) の3種類が提示されています。
 それぞれのジャンルにつき、そのジャンルの概要、複数の典型的なストーリー例、ランダムプロット表、サンプルシナリオ各2本 (合計6本) などが記載されています。また、舞台として、香港と中国の歴史や地理、ゲームプレイ上のポイントなどが解説されています。Triad (三合会とか中国マフィアとか呼ばれる犯罪組織) の解説も付いていて、押さえるべきところは押さえてあります。
(香港アクション風 RPG「Feng Shui」のファンからも、世界設定や香港映画の資料として非常に有用という評価が出ているくらい、しっかりと作られています (「Feng Shui」のリサーチがダメダメなだけという見方もできますけど…))

 また、巻末の香港映画リストも、25ページに渡って、映画のタイトルだけでなく監督名、主な出演者名、内容についての一言コメントまで書かれており、非常に便利です。(難点はタイトルが英題で書かれているため、日本人にはピンと来ない場合があり、ビデオをレンタル屋で探したりする時にあまり使えないということですが)

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 HKAT! は、一昨年後半に発売された RPG なのですが、すでにサプリメント2冊、シナリオ集1冊が出ています。(1998年春現在)
 残念ながら、私は「To Live and Die in HK」だけしか持っていないので、Event Horizon Productions のウェブページ (http://www.rpg.net/ehp/) 等からの情報で紹介します。
 「Film Festival #1」はシナリオ集です。15本のシナリオが掲載されています。形式は、ルールブック掲載のシナリオと同様に、基本プロットとプレイヤーキャラクターの役柄データと NPC データが中心で、細かい部分は記載されているサジェスチョンを参考にマスターが作る必要があります。
 「To Live and Die in HK」は、追加ルール集であり、車両の扱いに関するルール、子供キャラクターを作成するルール、キャラクターの技能や特徴、魔法のサンプルなどのデータ追加などがあります。また、追加の対応ジャンルとしてカンフーコメディとギャンブルについての記述があります。
 「Triad Sourcebook」は香港の犯罪組織の詳細な解説本です。香港ノワールの好きな人は、持っておくと、プレイに深い奥行きが出るでしょう。(個人的な印象ですが、デザイナーはこれを出したいが為に、HKAT! を作ったのではないかという気が…)

 ルールブックやサプリメント中に、イラストの代わりに、(ちゃんと映画会社の許可を取って) 香港映画の写真を数多く使っており、見ていても楽しい作りになっているなど、作り手側の情熱がいい方向に出ています。
 HKAT! は香港映画が好きな方なら、プレイしてみて損のない RPG と言えるでしょう。(少なくとも Feng Shui よりは…)

HONG KONG ACTION THEATRE! -CINEMATIC ACTION ROLE-PLAYING GAME-
Written by: Gareth-Michael Skarka
Publisher: Event Horizon Productions (http://www.rpg.net/ehp/)
Stock #: EHP1000
Price: $20.00

1999年9月、Event Horizon Productions は Guardians Of Order, Inc. に買収されました。現在 HKAT! は GOO から継続して販売されています。

(注)2001年7月、Guardians Of Order, Inc.から「HONG KONG ACTION THEATRE! SECOND EDITION」(HKAT! 2nd Ed.) がリリースされました。大きくルールが変化しているため、当記事の内容は 2nd Edition には合致しない部分が多々あります。

(written by 武藤 潤 at 13 Apr 1998, updated at 30 Oct 2001)