これは、rec.games.frp.cyber に流れたグループSNE独自展開サプリメント「東京ソースブック」のレビュー記事です。非常に鋭く深い評価が加えられているので、日本語に翻訳し掲載いたします。
 この翻訳版についての責任の一切は、私(武藤 潤)にありますので、御意見等は私のほうまで御連絡ください。


Newsgroups: rec.games.frp.cyber
From: malraux@godnet.iijnet.or.jp (Gen-ichi NISHIO)
Subject: [SR] Review: Tokyo Sourcebook (in Japanese)
Organization: GodNet -- A Virtual Reality Environment of the Cyberpapacy
Date: Sun, 1 Dec 1996 10:01:14 GMT

 先週、日本でシャドウランのライセンスを受けている富士見書房から、「東京ソ
ースブック」というタイトルのシャドウラン・ソースブックがリリースされました。
これは、日本で出版された最初のシャドウランのサプリメントです。カバーには、
「2054年の東京のすべて」「各地域の詳細な説明から、日本の魔法・クリッターま
で」と書かれています。聞いてみて、興奮してきます?
 見たところ、ロンドンソースブックかジャーマニーソースブックの日本版のよう
です。そう、これは日本人によって書かれた、2054年(訳注*1)の東京と日本帝国の
ソースブックです。ロンドンやジャーマニーソースブックは、FASAが自国で出版す
るほど、良くできた使えるソースブックでした。この日本製の本が英語に訳され、
FASAによって出版されるというのは良いアイデアです、その内容が素晴らしいもの
であるならば…。

(訳注*1)調べてみましたが、東京ソースブックでの現在年は2054年ではなく、もっ
と過去の2050年のままのようです。

 ですから、私は日本のゲーマーとして、この本のショート・レビューを書きまし
た。


書名: 東京ソースブック
出版社: 富士見書房(東京、日本)
著者: 江川晃/グループSNE
言語: 日本語

ページ数: 88ページ、カラー8ページ含む
価格: 3800円(約35ドル)
   たった88ページで35ドル? そう、私も高すぎると思います。

一言で言えば: お粗末

もう少し長く: 日本におけるロンドンソースブックの模倣の失敗

助言: この貧弱な質のサプリメントよりも、
   http://www.sainet.or.jp/~fatcat/index-e.html をお薦めしたい。


カバー・アート:
 若い男(たぶんティーンエイジャー)がビル群の前に立っている。ビルの一つは、
新宿の東京都庁舎。
 この絵はアニメ調の塗り方がしてある。描いたのは、日本のさして有名でないイ
ラストレーターで、藤川純一(訳注*2)。配色はいいのだが、デッサンが酷い。彼は
人体のスケッチを勉強するべきだろう。

(訳注*2)表紙絵は藤川純一ではなく、士貴智志です。「さして有名でない」という
ことは変わりませんが。

2054年の日本:
 大問題。このサプリメントは「日本帝国」というコンセプトを否定している。こ
の本によると、日本政府は力を持たず、国は多数のメガコーポに分割されている。
1つの都市は1つのメガコーポに支配されている。軍隊は解体されている。
 これは面白い可能性の一つであるけれども、FASAから出版された多くのサプリメ
ントと矛盾している。富士見書房がこれらのサプリメントを日本で出版する計画を
持っているようには思えない。
 私は、人々の生活のすべての面を支配する巨大な官僚制による全体主義政府のほ
うがいいと思う。そのシステムから逃げ出すためにSINlessになる者はごくわずかし
かいない。そのほうが「日本的」であると、私は思う。


2054年の東京:
 分裂した国家内で、東京はメガコーポの中立地帯、あるいはメガコーポに見捨て
られた都市と見なされる。この本では、東京は2035年のフチとアサクラ・エレクト
ロニクスによる企業戦争によって荒廃し、翌年に日本の首都は京都に移ったと書か
れている。現在、この都市は再開発の最中にあり、一千万の住人のいる巨大市場を
形作っている。
 フチが国の首都のど真ん中で、そのように大きな物理的な対決を起こしたという
のは、不合理な話である。東京の市場規模も信じ難い。なぜ、メガコーポに見捨て
られた人々が購買力を持っているのか? 彼らはどうやってクレッドを稼ぐのか? 
汝の生産物は何ぞや?
 本当のところを言って、このような無政府的な設定は日本のティーンエイジャー
(マンチキンと読む)の間で非常に人気があるのだ。彼らは単に、ローンスターに
止められること無くアサルトキャノンを持ち歩きたいだけなのだ…。


東京の各地域:
 まあまあ。この23ページ分の説明はさほど良い出来ではないけれども、大きな欠
陥はほとんど無い。以下はその概要である。
 西新宿 -- オフィス街[AAA]
 東新宿 -- ダウンタウン[D]
 渋谷 -- ティーンエイジャーとギャングの街[B/E]
 秋葉原 -- ハイテク店街[C]
 上野 -- 覚醒した森、メタヒューマンと魔法使いが多い[B]
 千代田 -- 古い建物が残されている[AAA]
 品川 -- 高級住宅と港湾倉庫[A/D]
 芝浦 -- 小さなオフィスビルが並ぶ[A]
 六本木 -- もう一つのダウンタウン、VIPで溢れる[A]
 池袋 -- 再開発区域[D/E]
 羽田 -- 羽田空港の廃墟とアーバンブロウル場[C]


他の都市:
 日本の他の地域についての説明には、たった3ページしか割かれていない。レン
ラクの本拠地・千葉シティについてはたったの27行である。


メガコーポ:
 メガコーポの項に4ページが当てられているが、ほとんどはCorporate Shadowfiles
からの直訳である(訳注*3)。Zurich Orbitalについての言及はない。
 この項では、2040年の千葉紛争でレンラクがシンミョウイン・ケミカルに対して
化学兵器を使用したと書いてあるけれども、このような乱暴な行動を企業法廷が黙
認したとは、私には信じられない。

(訳注*3)非常に重大な欠陥が数点発見されています。
1:シアワセはサイバネティクスが得意と書かれています。しかし、サプリメント
  Corporate Shadowfilesではシアワセのサイバネティクス分野のレーティングは
  3でビッグ8(世界の主要メガコーポ8社)の中でアレスと並んで最低です。想
  像するに、シアワセの得意分野「バイオテック」を翻訳予定の無いShadowtechの
  バイオウェアと混同して素直に訳せず、苦し紛れに「サイバネティクス」と書き
  替えてしまったのではないでしょうか。
2:アズテク日本のCEOが「不明」というのはいくらなんでもやり過ぎです。合法的
  な法人として成り立ちません。


種族差別:
 我々は皆、この覚醒世界において、おそらくJISが最もひどい種族差別の国である
と知っている。しかし、驚くべきことに、この本では国内の種族差別について、ほ
とんど描写が無いのである。2056年の東京オリンピックの説明はあるのに、
Shadowbeatに書かれている、日本政府がメタヒューマンの選手を出場させないと発
表したという事実には言及されていないのである。
 なぜ、種族差別が無いのか? 日本の読者の大半を占めるティーンエイジャーは、
自分たちの国をその様に表現することを嫌うからだ。ああ、日本人は皆、人種差別
がよくないと知っている。彼らの唯一の欠点は、どのようにすれば人種差別を防ぐ
ことができるか知らないことだ。彼らは民族的な事柄に鈍感で、気づかぬうちに民
族的な問題を起こす傾向がある。それにもかかわらず、彼らは自分自身が人種差別
主義者だと考えようとしない。彼らは、現在の保守的な政権が強制する「愛国的」
教育システムのために、彼らの祖父たちが過去に韓国や中国、アイヌ、沖縄の人々
に行なったことを教わっていないのである。そのごまかしと偽善を、私は許すこと
ができない。
 待った! 失礼、これはゲームのレビューで、政治的な抗議ではないのです。


魔法:
 この本では魔法の新しい分野、陰陽道が紹介される。これは、中国の神秘主義と
深遠な仏教、日本の自然信仰が合わさったものである。多くの日本の伝説には、陰
陽道の魔法使いが超自然の怪物と戦う話が含まれている。
 陰陽道の実践者はマジカル・アデプトのように扱われるので、キャラクター作成
時に優先度Bを割り当てなければならない。そして、ちょうどフィジカル・アデプ
トのように、様々な「パワー」を購入する。そのコンセプトはちょっと興味深い。
だが、「呪文使用」パワーにはわずか魔力0.5を払えば良いのだ。そう、ソーサリー・
アデプトと同じ能力を買うことができ、しかもまだ、アストラル投射やウォッチャー
召喚、精霊の消滅などの能力を買うのに5.5も持っているのだ。一方、その魔力レー
ティングは、Awakeningsのフィジカル・マジシャンのように、呪文使用の目的では
低下するということもない。非常に強力である。
 このサプリメントによると、陰陽道アデプトは「式神」という小さな精霊を召喚
できる。式神のルールは、本質的にグリモアのウォッチャーと同じなのだ。この本
では、陰陽道キャラクターだけが式神を召喚できると書いてある…。待てよ? 日
本では普通の魔法使いはウォッチャーを呼び出すことができない?
 陰陽道ルールの大部分はGrimoireやAwakeningsと併用できないと言わなければな
らない。富士見書房は日本でGrimoireやAwakeningsを出版する計画を持っていない
ように思われる。ひどく失望した。


クリッター:
 9のクリッターが説明されている。日本のアイキラー、日本のヴァンパイア
(鬼)、日本のウェンディゴ、巨大猿、「鵺(ぬえ)」あるいは覚醒コウモリ、日本
のレシー(天狗)、巨大蜘蛛(土蜘蛛)、河童、日本の幽霊。悪くはないが、「日
本的感性」の不足が悔やまれる。


その他のルール:
 この本には、Neo Anarchist's Guide to Real Lifeからの合法性とクレッドステ
ィックのルール翻訳が含まれている(訳注*4)。これは日本のゲーマーにとっては有
用である。日本語版のNAGtRLは予定されていないからだ。
 マーシャルアーツやニンジャのルールは無い。

(訳注*4)合法性とクレッドスティックのルールは、Sprawl Siteからの翻訳である
と思われます。
 罰金/懲役表の数字はSprawl Siteから細々と書き換えられており、小型刀剣や
鈍器の所持/携帯の罰則が無くなっているなど、著者のイメージする『無法地帯・
東京』の姿が顕著に出ています。また、アメリカでいうところの第二級殺人に
「謀殺」の訳語をあてているのは明らかに間違いです。


結論:
 この本を、日本人でないゲーマーがソースブックとして使用するのは非常に難し
い。あまりにたくさんの欠陥や、FASA製品との不整合がある。また、日本の読者向
けに書かれたものであるため、日本文化についての記述はほとんど無い。ヤクザや
組織犯罪の記述も無い。もしFASAの人たちがこの本の英語版を出版することに決め
たら、彼らは穴を繕うために相当な量の新たな素材を加えなければならない。私は、
他の人たちに命じて、まったく新しいFASA版日本ソースブックを作ることを、彼ら
に提案したい。
 もし、あなたが2057年の東京でプレイしたいなら、私はむしろ「JISプロジェク
ト」を推薦したい。才能を(比較的)持ったファンたち数人が今、東京と日本帝国
の設定を作っている。彼らの成果を、JISプロジェクトWWWページ
http://www.sainet.or.jp/~fatcat/index-e.html で見ることができる。このペー
ジは未完成で、スペルミスや文法ミスも多くある(そう、我々日本人は英語がそれ
ほどうまくないのだ)けれど、この酷いソースブックよりはるかに良いものである。



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