「Corum」(Darcsyde Productions)は、「Stormbringer 5th Edition」(Chaosium Inc.)のサプリメントで、マイクル・ムアコックの小説「紅衣の公子コルム」シリーズを題材にします。(「Stormbringer 5th Edition」の旧版「エルリック!(Elric!)」とも完全互換)
舞台となるのは小説の「剣の三部作」(前半三部作)の世界で、「フォイ・ミョーア三部作」(後半。「銀の手の公子三部作」とも呼ばれる)は扱いません。
先日「Corum (+ Elric!)」のマスターをしましたので、ルール等に関する雑感をまとめておきます。
世界設定が違うので、キャラクター作成で用いられるチャートやデータは変化しています。特徴的なのは、異種族のキャラクターが自由に作れるようになっていること。「Stormbringer 5th Edition」では異種族は原則不可(D100で01を出せば選択可能)であったのに対し、「Corum」では原則可能(マスターの同意は必要)になっています。
ヴァドハー、マブデン(人間)の文明人、マブデンの蛮族、ナドラーという4つの小説の主要種族の他、ラガ・ダ・ケータ(1巻「剣の騎士」に登場)やシャラフェン(1巻「剣の騎士」、ハナファックスの来歴話の中で言及)が選択できます。
「Corum」は「Stormbringer 5th Edition」(以下Stormbringerと省略)のサプリメントという建前になっていますので、ルールは変更部分の差分のみが掲載されており、キャラクター作成もその形式になっています。
しかし、キャラクター作成部分は、差分でなく変更のない部分も含めた記述にしたほうが良かったであろうと思われます。
「Stormbringer」のキャラクター作成は11のステップから成り立ちます。「Corum」の異種族キャラクターの作成ではこれらのステップの差し替えで変更点を示しています。
主要な異種族「ヴァドハー」と「ナドラー」は共に11ステップ中7ステップが差し替えとなっています。変更のない部分のほうが少なく、「Stormbringer」と「Corum」のルールブックを交互に参照するのは相当骨が折れます。
また、「Corum」ルールブックには、人間(マブデン)キャラクターの作成では文明人・蛮族共に各ステップの変更はないと記述されています。しかし、実際には、魔法のルールが Sorcery(妖術:〈混沌〉の魔法)、Contriving(発明:〈法〉の魔法)という新ルールにほぼ差し替えられており、これらについては個々のルール記述を参照しないと、キャラクター作成時に行うべき手順を見落とす恐れがあります。
Contriving(発明:〈法〉の魔法)は、相当に強力です。特にヴァドハーのキャラクターを作った際には、学習と発明品作成のためにかなりのボーナスポイントが与えられますので、様々なことができます。(マブデン(人間)のキャラクターが作成時に Contriving を習得するのは、マスターの大きな助力がない限り困難です)
Contriving の効果の基本的な部分は、旧「ストームブリンガー(第4版以前)」の力天使とほぼ同じです。効果のサイコロが常に最大値になったり、技能判定が常に90%で行えたりします。次元界の間を移動する機械も作れます(小型のものなら)。
実際の処理は良く似ていても、原作に出てきたこともない「力天使」よりも、何らかの理論に基づいた「装置」であるという Contriving の説明は原作ファンにも非常に納得のいくものです。
Contriving のルールは「Stormbringer」の新王国世界にほぼそのまま持ち込んでも、(Plane Shift(次元移動)に重めの制約を付ければ)十分に機能すると思います。
一方の Sorcery(妖術:〈混沌〉の魔法)も強力ではありますが、少々ペナルティが厳しすぎるきらいがあります。
呪文に相当する Sorcerous Meld は、その効果を成す Chaotic Effect を1個ずつ判定し、望む効果が揃った後で Meld 本体の判定を行います(例えば、Healing(治癒)の効果だけの Meld を出すのにも、Chaotic Effect の判定と Meld の判定で、計2回の判定が必要)。
こうして出来た Meld は数時間は発動させずに待機させておくこともできますので、判定にかかる手間やゲーム内時間はある程度まで事前の準備で軽減できます。
ここからが最もつらい点で、作ったばかりのキャラクターでは、Sorcerous Meld を使うたびに90%前後の確率で Chaos Trait Table(混沌の諸相表)を振ることになります。(実際の判定は逆で、〈混沌〉のアリージャンスの判定(作ったばかりのキャラクターでは成功率10%前後)に成功したら、Chaos Trait Table を振らずに済みます)
Chaos Trait Table の結果の半数以上が、能力値が減るというものです。能力値は減らなくても不利になるものもあり、良い結果・有利な結果と言えるものはごくわずかです。
このルールですと、原作に登場する妖術師は最初から全員人間離れした姿になっていないとおかしいくらいなのですが…。
アリージャンスは、世界における神格化された三勢力〈法〉と〈混沌〉と〈天秤〉の間で、プレイヤーキャラクターがどの勢力の思想・志向に近しい行動をしてきたかを示す値です。一つの勢力のポイントが他の二つと一定の差がついてくると、その勢力の志向に合った恩恵が得られるようになります。
「Stormbringer」ではアリージャンスは1回のプレイでわずかしか変動せず、非常に長いキャンペーンを行うのでない限り、ゲーム固有の特徴的なルールであるにもかかわらず、あまり影響を及ぼさない地味なルールでした。
「Corum」では、Contriving が導入されて〈法〉と〈混沌〉のゲーム上の力が拮抗してきたとか、魔法を使うキャラクターにとってアリージャンスの数値が様々に影響してくるとか、そういった理由からアリージャンスの重要性が「Stormbringer」に比べて非常に高くなっています。
しかも、その重要性を増すかのように、アリージャンスが変動しやすくなっています。Sorcerous Meld を使うたびに〈混沌〉のアリージャンスにポイントを加えるようルールサマリーにも明記されています。同様に Contriving で発明品を作成するたびに〈法〉にポイントが入ります。
その他にも、マスター向けセクションにポイントが増減する行為の一覧があります。「Stormbringer」にもマスター向けのセクションに同様の記述はありましたが、目安としてであり、あまり杓子定規になって頻繁に増減させないよう、わざわざ断りが入っていました。
しかし「Corum」では、そういった断り書きはなく、ポイントの与え方がルール本文やサマリーにも記述されるようになり、行為ごとに頻繁にポイントを与えることが推奨されているようです。
特徴的なルールを十分にプレイヤーに印象付けて、生かすように工夫がされていると言えるでしょう。
「Corum」、面白いです。旧「ストームブリンガー(第4版以前)」よりも、「Elric!/Stormbringer 5th Edition」よりも、良くできているんじゃないかと思うくらいです。
「Elric!」は旧「ストームブリンガー」の乱雑さを振り切って、古いシステムに良く考えられたエレガントさ・統一性を持ち込んだものでしたが、「Corum」はその洗練された中にダイナミックさ・プレイヤーの思考に働きかけるものを良く練り込んだ上で組み入れています。
原作小説と同じ時期を舞台にすることが推奨されていることと合わせて、原作ファンと原作を知らない者どちらにとっても非常に興味深いことができると思います。(原作中で記述された事件に関わるシナリオは、「わかる人だけわかる」というような無闇な情報の伏せ方さえしなければ、原作を知らない人にとっても「ゲーム世界の派手な事件・変革的な出来事」として印象深いものになるでしょう)
「Corum」が単体で成立する製品でないことが残念に思えます。「Corum」を高く評価するかもしれない人が、「Elric!(エルリック!)」「Stormbringer 5th Edition」を見た段階で低めの評価を下してしまって「Corum」に触れる機会を逸してしまうこともあり得るのではないでしょうか。
「Corum」は長い歴史を持つ Basic Roleplaying 系のシステムに、新鮮な変化をもたらしてくれています。一見の価値がある佳作サプリメントだと、高く評価できます。
(written by 武藤 潤 at 31 Mar 2002, updated at 6 Feb 2005)