Mage: The Ascension

概観

 "Mage: The Ascension" はWhite Wolf社のVampire: The Masquerade, Werewolf: The Apocalypseに続くWorld of Darknessシリーズ第3段として1993年に初版が発売されました。

 プレイヤーは現代に生きる魔法使いをプレイします。

 プレイヤーキャラクターは魔法使いの派閥Traditionsの一員となり、科学という魔法を使い現在の世界を支配する派閥Technocracyの巨大科学・全体主義・拝金主義に敵対・対抗しながら、人類全体の覚醒(Ascension)を目指すという、それまでのWoDシリーズにはあまり無かった明確な目的を打ち出し、WoDに新しいファン層を引き付けました。

魔法

 自由度の高い魔法ルールは、当時White Wolf社が版権を持っていたArs Magicaの流れを引き継ぎつつも、より大胆(大雑把)で派手なものになっています。

 8つのSphereという特殊技能を用意し、そのレベルの値でできることの範囲を、判定結果で効果の大きさを、それぞれ決めるようになっています。(空間位置、エントロピー、エネルギー、生命、物質、精神、魔力、霊魂、時間)

 例えば、Timeの3レベル(キャラクター作成時の最高値)では時間の進む速度を変えることができ、5レベル(基本ルールでの最大値)では未来への時間移動、不老といったことができます。(周囲の時間を止めるのは4レベル)

パラドックス

 一方で、Technocracyの科学が支配的な現在の世界では、一見して魔法だとわかるようなことを起こせばパラドックス(矛盾)が発生します。あまり派手に魔法を使えば、パラドックスの反動ですべてが無かったことになってしまう(自分自身の存在も消える)可能性もあります。

 そのため、あれやこれやと知恵を巡らせて、あってもおかしくないような形で魔法の効果が起きるように考えなければなりません。

派閥

 一般的な西洋錬金術やシャーマニズム、キリスト教信仰などだけでなく、コンピュータネットワークやバーチャルリアリティを操るハッカーや、気功などを使う格闘家、マッドサイエンティストなど、ユニークな「魔法」の一派をプレイできるのも魅力の一つ。

 ただし、NPC向けの派閥Technocracyのほうがかっこいいというのは、難点だったかもしれない。

が集まっている一癖ある連中をプレイできないのはアメリカでも不満があったようです。

 後にTechnocracyをプレイヤーキャラクターとして扱うためのサプリメントがリリースされましたが、これがMageの不幸の始まりと言えなくもありません。

変遷

 White Wolf社はTechnocracyをプレイヤーキャラクターとしてより容易に扱えるようにするための方策を考え始めます。

 ちょうどVampire: The Masqueradeの世界設定に変動を加え、敵味方の区別がさらに曖昧になった混沌とした世界の構築が始まり、Mageもその方向性に流されていきます。

現在

 結果、2000年に発売された新版ルールブックMage: The Ascension Revised Edition(第3版に相当)では、TraditionsとTechnocracyの戦いに終止符が打たれ、世界は科学万能主義へと方向を定めてTechnocracyが勝利を収めたことになります。

 しかしTechnocracyが勝っても、それまでの情報統制のためにすでに一般大衆はすべての事柄に無関心となってしまい、TechnocracyのAscensionの道は遠くなってしまいました。

 戦いに破れたTraditions、自らの手で道を閉ざしたことになってしまったTechnocracy、この二派の戦いが意味を無くしたことで、魔法使いたちはより小さな自分の所属するグループの思想を掲げ、個人個人で自らのAscensionを目指すようになります。


 こう書くと格好いいのですが、敵と戦い世界を変えるのでなく、キャラクター個人の内省的な動きをプレイすることが推奨されるようになるため、プレイヤーのキャラクター没入性が非常に高まりました。

 Vampireなどで批判されていた「本人は高尚な気分にひたっているけど、周りから見れば何も伝えようとしていない自己陶酔」という傾向を、強くMage: The Ascensionも持つようになったと言えます。

(written by 武藤 潤 at 01 Nov 2000, updated at 30 Oct 2001)