Kult 世界の概観

 "Reality is a lie."
 「現実は虚構である」

 Kult の世界では、我々が知る現実というものは虚構にすぎません。現実とは、人間を卑小な枠の中に閉じ込めておくための、牢獄なのです。
 しかしながら、その牢獄を作り上げた、自らを「創造主」と呼ぶ存在は、長い歳月の間に姿を消してしまいました。今や、真の世界と我々の現実を隔てる壁には、綻びが生じつつあります。
 向こうの世界から、かつて天使や悪魔と呼ばれた存在が、「創造主」の影響から解き放たれ、大半は目的を見失ったまま暗闘を繰り広げ、密かに (時には堂々と) 現実のこちら側へとやってきます。
 一方で、狂気や罪の意識の強さから、現実という幻影を変化させたり、真の世界を垣間見る人間が現われ始めています。

 プレイヤーキャラクターたちは、そういった現実の綻びに触れてしまう「普通の」人間です。
 ちょっとした狂気を持っていたり、罪の意識に苛まれていたり、家族が他人には言えないような秘密を持っていたりしますが、それは、言ってみれば現代人の誇張された姿です。
 少しばかり精神のバランスを崩した人間が、綻びに触れた時、現実は変化し始めます。最初はわずかなズレかもしれませんが、それは次第に大きくなり、遅かれ早かれ、いつか虚構は崩れ去ります。
 真の世界は、人間の正気を奪うに十分な姿を持ちますが、それで終わりではありません。世界に真の姿があるように、人間にも真の姿が秘められています。…そう、まだ、これは始まりにすぎないのです。

 心の奥に押し込めていた恐怖が、物理的な姿を持って現われ、悪夢が現実となって襲いかかります。罪の意識が現実をねじ曲げ、人は自ら作り出した煉獄へと囚われていきます。そして、恐怖は、その者自身の姿形さえも大きく変えてしまいます。

 最後には、現実という牢獄を破った人間は、「光」と「闇」という本質に向かい、突き進みはじめます。それは人間の価値観を超え、神 (悪魔) の領域に踏み込んでいくのです。「創造主」が怖れたように…。

 「クトゥルフの呼び声」+「真女神転生II TRPG」+「深淵」+「Dark Conspiracy」。一言で言えばそういう感じです。
 非常に贅沢にホラーの要素を取り込んだ RPG と言えますし、世界設定がそれらすべてを包含するように用意されています。
 最初のシナリオは、ルールブック付属のシナリオのように陰謀がかったものでも、スプラッターでも、サイコホラーでも、十分に対応できます。しかし、キャンペーンシナリオを念頭に置いたルールが用意されているわりには、このゲームのキャンペーンがどうなるのか、うまく機能するのか、予測がつかない面もあります。

(個人的には、ルールや世界観に従って映画「シャイニング」が再現できる唯一のホラー RPG であるという一点だけで、十分に評価できると思います。)

(注:この記事は Kult Second Edition (英語版第二版)をもとに書かれていますので、ルールやルールブックの内容についての記述は、現在の KULT: Divinity Lost (第四版)の内容とは大きく異なります)

武藤 潤 (Jun MUTO)

(ゲーム製作者たちや当ページの筆者は、宗教的な信条を表明したり、読者に信条を伝えようとしているわけではないことを付記しておきたい。これは単に、このロールプレイングゲームの設定にすぎないのである。)